呉嘯海個展「呉嘯海:自然意識」
「自然(=ピュシス)は世界内部的存在者として、さまざまなアプローチや順序を通じて捉える。」 —— ハイデッガー
「呉嘯海:自然意識」は、芸術家呉嘯海が2023年3月にIOMAアートセンターで開催した個展です。「世界で最もポテンシャルのあるアーティスト年度TOP10」に選ばれた呉嘯海の今回の個展は「自然」を中心に、230点以上形式多様な芸術作品が展示され、芸術家いままで開催した展示のうち世界最大規模の芸術作品個展となります。PILLSは招聘を受け、この個展の空間デザインを担当しました。ユニークな鑑賞ルートを設計することで、来場者の目の前によく知られているが無限な生命力を持った「自然」が広がります。 迷宮_自然の感応 1階には、呉嘯海は自然に浸れて創作した特大サイズの絵画作品や立体作品が展示されています。作家が野外に出かけ、どこにでもあるような石、樹木、芝生などが彼の観察対象になります。彼は真正面から、もしくは見下ろす視線で自然にあるものを「忠実」に観察し「再現」する、描いた絵は「人間機械」を通してスキャン、そしてつなぎ合わせて、パッチワークのようなものが完成されました。空間デザインのコンセプトは、作家が採用している「自然」を「見る」という創作手法を反映し、展示ホールという空間に「迷宮」を原型とした大地の景観を再現する試みにより、観客に展示に足を踏み入れるとまるで自然に帰ったようなイマーシブ体験を提供することで身体と土地との繋がり呼び返そうとしました。彫刻作品は迷宮通路のあちらこちらに点在に置かれ、低い壁の仕切りにより観客を誘導できる鑑賞ルートが創られ、観客と芸術品の居場所との距離は遠くなったり近くなったり、こうすることにより、観客が作品を鑑賞する際に迂回しながらも回って鑑賞できる視線関係が生み出します。同時に、構造柱をミラー素材で覆って隠したデザインは、限られた土地に視覚的に無限に広げる効果に仕上げました。周囲の展示壁には大きなサイズな油絵が陳列されています。壁と天井は黒く塗られ、そこにテープライトが整然と配置され、ほの暗いなか神秘的な雰囲気を醸し出しています。極めて抑えられた照明は、より絵の内容の豊かさと色の鮮やかさを際立たせます。細部を巡って観ていくと、本来日常的でよく見落としがちの「自然」が拡大・強調され、その新たな表情と生命力が示され、人々の意識的の、無意識の、または潜在意識の内省が刺激されます。 地平_鑑賞の罠 美術館展示ホールの2階は天井が低く、構造が複雑という特徴、制限があり、そのため2階の空間デザインは1階の室内ほの暗くミステリアスな雰囲気作りを引き続き使用して、暗闇の中に一筋の光の「地平線」を仕上げました。2階に展示されるのは、作家がコロナ期間中に描いた148点のスケッチ日記です。これらスケッチを置かれている斜めのガラス展示台は壁に沿って半囲いを形成しています。来場者は、明るい真っ白な通路を通ってこの空間に入ってくると、目の前に広がるのはコマ漫画形式で陳列されている貫く作品です。「地平」は、まるで画像で構成された深層時空を作り出した、観る人を魅了します。絵の内容は作家が直感的に主観に感じたものを具現化してスケッチしたもので、自然のものと人のイメージが融合して、なにも意味がないナラティブを構成していきます。整然とした秩序を感じさせるディスプレイは、人々に画像と画像の内容の関係を探索させたり、美術史のモチーフとして認識できるものにより解釈させられたりするよう導いています。ここでは、絵画と空間デザインのズレが「鑑賞の罠」を形成し、作家の考える「生理的な鑑賞」の重要性を強調し、経験本位または文化的意味に依存する「鑑賞」に疑問を投げかけます。 厚い壁_歩く度に景色が変わる 展示ホールの3階は視野が開放的で自然光がたっぷり差し込むホワイトキューブです。今回の空間デザイン案では、この開放的な室内空間に主要な鑑賞回廊を設計しました。この回廊はまるで厚みのある「厚い壁」のようで、空間全体が回廊の内側と外側、二つ囲まれた空間に区切ることで、多様な展示品のディスプレイニーズに応えると同時に、「鑑賞」の趣味性を作り出します。 サイズが異なる立体作品は廊下の内側に高低差をつけはめ込んだ壁龕型展示台に置かれています。回廊の片側に元の展示仮説壁を残すことで、室内に差し込む光が展示の光環境への干渉を弱めながら、そのソフトな自然光は同じ片側に置かれた大型彫刻作品を照らしています。曲がる回廊に沿って内側に窓が開け、異なるフレームに囲まれる景色と対向する景色を形成し、来場者は壁に開けられた窓越しに囲い空間に置かれている作品を鑑賞したり、反対側の回廊にある彫刻を眺めたりすることができます。回廊の外側にある囲い空間に入ると、厚い壁を支える木造の構造がそのまま裸に出て、乱雑する落書きやテキスト、そして古典的な質感を持つ立体作品が混在し並置され、荒々しい自然な感じ、また一見混乱としているが創造に富んだ空間を仕上がりました。「厚い壁」のデザイン案は壁を利用して来場者の視界を制限することは、従来の干渉ルートをチャレンジします。思いのほか、さまざまな景色のシーンが秩序整然と構成されているため、鑑賞方法をより多様性豊かにし、また観る側にももっとクリエイティブな方法で展示を探索するよう励みます。 ベール_時の痕跡 観客は会場の3階からメザニンにある独立空間へ入れます。デザイン案では、二層の透光性生地を使用し、この空間に元々ある掃き出し窓を覆うことで、空間内に差し込む自然光の明るさが抑えられ、柔らかくなります。窓の外にある具象的な木の枝は、二重のベールを越しに見ると、抽象的な木の影に変わり、そうすることで自然そのものも展示の一部となります。時間の経過とともに自然光が変わっていく、ベールに映る木の陰も変化していく;同じ時間に、会場内の違う場所からは様々な木陰の変化を鑑賞できます。「妊娠する人魚」は窓の前で横たわって、カーテンウォールに映る木の影が空間内のメインビジュアルガイドとなり、観客は目で自然を測るように導かれ、生命力の鼓動を感じられます。 「呉嘯海の作品は星の群れを構築し、時間空間に飛び越え行き来し、従来経験から乖離しているから、無限の可能性が湧き出ています。」展示の空間デザインは彼の作品の文脈を継承しており、それに沿って観客は「自然」を見るように導かれ、「見る」本質について考えさせます。「この人工知能が盛んの時代に、目に見えるもののすべてはデジタル映像画像に置き換えられるならば、私たちはどうすれば自然とのつながりを再構築できるか?」身体を原点に、自然とシンクロする、これは今回の空間デザインと芸術家の作品が出した答えです。
プロジェクト情報 主催者:IOMAアートセンター アカデミックモデレーター:範安 キュレーター:張子康 プロデューサー:王令雪 展示ディレクター:趙法之 展示デザイン:王子耕 キュレーションアシスタント:孫天芸 グラフィックデザイン:連蓮蓮 展示時間:2023年3月3日―2023年4月16日 展示会場:北京IOMAアートセンター 空間デザイン:PILLS プリンシパルアーキテク:王子耕 設計担当:汪曼穎、陳明遠、鄧玥珠 会場設営:高瞻偉業(北京)建築プロジェクト有限公司