人間製造:イヴの選択
2020年4月19日、「アーバンインターアクション」のテーマを掲げる第8回深セン・香港都市/建築二都市ビエンナーレが正式に閉幕しました。 PILLSのメイン展示に出展した作品《人間製造:イヴの選択》は、24か国からの140点以上の出展作品から頭角を現し、学術委員会大賞を受賞しました(受賞作品計4組)。 人間製造:イヴの選択 コンピューターで精確に細かく分解した後に再び組み立てた女性の人形が、光るガラス床の上に丸く縮こませて置かれています。透明なプラスチックフィルムに包まれる彼女は、片手が体を閉じ込める束縛を開けようとしている、もう一つの手で一口かじられているリンゴを持っています。彼女の各関節は製品化されたリンクです。これは彼女が人型としての標準化特徴を備えていることを意味します。内部と外部はチューブとケーブルを通じて繋がり、あたかも子宮の中に育んでいるようです。彼女の体はフィルム膜に縛られる同時にチューブとケーブルに絡まられています。それらのチューブやケーブルは彼女に生命とエネルギーを注ぎ込むようにも見えるが、同時に彼女の行動を制限しているようにも見えました。人形は真っ暗な部屋に横たわっている、唯一の光はLED で照らされたガラスの床からくる明るみだけです。人工的に作り出された闇と光は、生意気に人形の世界と自然の世界を隔てました。彼女は完全に人造の子宮に育まれ、あたかも世の中という失楽園に目覚めるようです。 失楽園 エデンの園には2本の木があった、生命の樹と知恵の樹。神様はアダムとイヴに:「知恵の樹からの実は食べてはいけない、それを食べる日にあなたは必ず死ぬ」と言われました。これは神が人間に与えた唯一の戒めです。蛇はイヴを誘惑して、「知恵の樹からの実は食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなる、決して死ぬことはないなのだ。」と言いました。イヴが直面している選択は、表面から見ると神に従うか神に背くかの選択だが、実際には知恵を選ぶかと命を選ぶかの選択でした。イヴは知恵を選んだということは、彼女は自分の命を生死にさらすことになり、限られた命で苦しむ運命となります。 世の中の動物と違って、人間は鋭い爪と牙を生えていないし、寒さをしのぐ毛皮も持っていない、神に与えられた肉体だけを頼りに地球上で活動できる範囲は非常に狭く、たとえ小さな災害もしくは気候変動でも、絶滅してしまうかもしれません 。フランスの哲学者ベルナール・スティグレールは、人間はこのようになったのは、エピメテウスが命を保つ特質を人間に委ねることを忘れてしまったからと言っていました。エピメテウスが忘れてしまった過失の故、プロメテウスは古代ギリシャの神様たちのところから火を盗んで人類に与え、技術を教えることになりました。スティグレールの見解では、これは人類の運命の隠喩:欠陥は存在し、人工的な技術的な運命に宿るのです。欠陥は、補綴性、技術性の運命に存在し、補綴物や技術を生み出しています。他の動物とは異なり、人類の進化は生命自身で進化していくことではありません。人類の進化のプロセスは外在化のプロセスで、技術すなわちテクネーの世界に完成したものです。つまり、人類のオントロジー(存在論)または人類の歴史は、道具のある世界と切り離せないものであり、人間は道具を発明しながら、自らも発明しています。 毒リンゴ リンゴ(Apple)は禁断の果実の象徴、またサイバーカルチャーが勃興して以来、リンゴは現代テクノロジーのトーテムとなっています。一口かじられたリンゴは、あらゆるインテリジェント電子デバイスの象徴にもなりました。アラン・チューリングの死は、さらに毒リンゴを宗教的のようなテクノロジーメタファーにさせました。クラウドを通じてインターネットに繋がるIoT(Internet of Things)は、人類の新しい生息環境になっています。メディア批評家マーシャル・マクルーハンは、電子メディアは人間の身体の拡張(延長)であると主張しています。角度を変えて見ると、メディアは人類の身体を「切断」したとも言えます。ユビキタスIoTは、人類の新しい人工補綴(義肢)になっています。スマートフォンやタブレットとのつながりは切っても切り離せない人類は、海のように浩大なアーカイブからいつでもどこでも情報を検索できることに慣れすぎるあまりに、人類の魂と肉体の定義は、再定義する必要が出ています。人たちはバッテリーの完全消耗を「死」で表現する、電線や光ファイバーはIoTのライフラインだけでなく、人類自身のライフラインでもあります。 アンドレ・ルロワ=グーランは、人類の進化プロセスはすべて私たちの身体の機能の外在化と呼ぶプロセスで、他の動物が内部へと種の適応(species adaption)進化してきたを主張しています。ネアンデルタール人の時から、人類は生物学的属性において、サイボーグの運命を選んで外在化する技術に依存し生きてきたなのかもしれません。現代の人類の進化史は、動物性の劣化と外部の技術力の向上する歴史として捉えるができ、技術は人間によって発明されるだけでなく、人間を「人間」にたらしめるものでもあります。 人間製造 人類の生物学的属性と人類の非生物学的環境が不可逆的に結合した今日には、人類のオントロジー(存在論)と歴史形成との境界を明確にすることは難しくなっています。身体の観点から見ると、人間の感覚は完全に外在化され、ほとんどの人類にとってインターネットは第一の情報源となっています。フランスの哲学者ジョルジュ・カンギレムは、かつて著書『正常と病理』の中で、自然環境と人間の関係から、「環境を考慮せずに、健康とは空虚な概念になってしまう」と書きました。 環境の変動に応じて規範を形成するというかぎりにおいて健康である。自然環境と人体との間にユビキタスのテクノロジーメディアがある故、人類のホメオスタシスは、自然によって定義されだけではなく、技術によっても定義されます。これもいわゆる「正常」は、人造環境にしか存在しない、また人工エネルギーによってサポートされている正常であることです。 カンギレムの弟子であるミシェル・フーコーは、カンギレムが生物についての研究を「魂」のレベルにまで拡張しました。人間の肉身以外の外在するすべてのものは、身体の状態と同じく、心理学によって、技術や道具に絶えず再定義されています。人間は道具や技術の進化を通じて、常に非生物学的な自分自身の鏡像を創造し続けており、人間は道具を発明する、それだけではなく、道具もまた人間の定義を再定義しています。 システィーナ礼拝堂の天井画『創世記』には、アダムが人差し指で神の指に触れ合おうとする場面が描かれています。床に横たわっているイヴも、展示を見に来る人に意識を吹き込んでもらうように、力いっぱい手を伸ばしている。人形が置かれた姿勢は観客を創造主の位置に間違いなく置きますが、同時に観客は人形に自分自身を重ねて見えてくるかもしれません。人間と道具の間の曖昧な境で、人間とは何か、創造主は誰なのか、このような古きからの疑問が再び浮び上がるかもしれません。 補記 本展は、もともと理想国(NAIVE)が企画出版する書籍シリーズ 『描かれた病』と『描かれた手術』とコラボし、身体、都市、病気、医療文化史などを共同で探求する予定です。また作品の原型として人形を選んだ理由もそのためでした。しかし残念ながら、学会活動の中止により実現できませんでした。このシリーズ本は現在刊行中、今後もさらなる面白いテーマ企画が登場する予定ですので、ぜひご注目ください。 展示会について 第8回深セン・香港都市/建築二都市ビエンナーレ(深セン)が2019年12月22日に開幕し、近日閉幕しました。今回のビエンナーレは「アーバン・インタラクション(Urban Interactions)」というテーマを掲げ、技術進歩がどのように都市、人、サイエンス・テクノロジーと自然、そしてそれらの間の関係にどのような影響を与えるかについて焦点を当てて検討しました。ビエンナーレは「上昇する都市(Ascending City Section)」と「都市の目(Eyes of the City Section)」の2部門に分かれ、本作品が出展した「上昇する都市」部門は、中国工程院院士の孟建民と著名キュレーター・美術評論家のファビオ・カヴァルッチと手を組んでキュレーションしました。深セン市現代芸術と都市計画館(MOCAUP)で展示されたこの部門は、技術と人間、都市と建築家、現実と架空を検討する旨です。
プロジェクト情報 プロジェクト種類:アートワーク デザイナー:PILLS/王子耕 デザインチーム:PILLS/ 制作会社:上海尚托科技有限公司、追雲者スタジオ 展示ディスプレイ・デザイン:PILLS/王子耕 展示設営・施工会社:深センシルクロードビジョンテクノロジー株式会社 クライアント(委託機関):2019年深セン・香港都市/建築二都市ビエンナーレ キュレーションチーム:孟建民、張莉、鄺丹怡、李舒揚、徐媛媛 スペシャルサンクス:孟建民、張宇星、李萌迪、張莉、魯彬、唐煜、馬歩匀、文那、劉婉婷、黄浩、董博泰 プロジェクト場所:深セン(深セン市現代芸術と都市計画館)